第10話

「それで、あなたは何者なのですか?」


 気を取り直した俊彦は、意味もわからず仲間になった騎士の素性を聞くことにした。


「私か? 私は、アルバートだ。トシと共に、試練へと挑むただの漢だな」


 結局、名前しかわからなかった。そしてアクセル同様、とても馴れ馴れしいことがわかった。


 アルバートはガッチリとした体型の偉丈夫で、濃いブラウンの髪と蓄えた髭には少し白髪が混じっている。王城内で剣を携えていることから、身分の高い騎士か、近衛騎士であろうことが伺えた。

 と、分析をしてみたがよく見るとアクセルも短剣を腰に挿しており、ラングリーズ王城のセキュリティがザルなのではないかという不安がよぎる。ふと見かけた向かいから歩いてくる騎士も腰に剣を吊るしており、そういう国柄なのだろうかと納得した。


 俊彦が歩いてくる騎士をまじまじと見つめていると、騎士もこちらに気づいたのか、立ち止まる。


「ナイセル団長、このような場所にいたのですか! 会議の時間になっても来ないので探していたのですよ!」


 二十代後半くらいの金髪の騎士がアルバートに向けて声をかけてくる。俊彦の予想通り、アルバートは位の高い騎士のようだ。


「うむ。私はこれから試練へと挑まねばならん。会議の方は任せるぞ、ウェストハイド」

「試練ですか? この先で?」

「うむ」

「……」


 ウェストハイドと呼ばれた騎士は深い溜息を吐き、頭を振る。


「貴方がいなければ会議が進みません。試練とやらは別の機会にお願いしたく」

「そうがいうがな、ウェストハイド。私はすでに近衛を離れた身だ。いつまでも会議に出ていては新しい団長も困るというものだろう?」

「おっしゃることはわかります。ですが、マクレーン千人長がお亡くなりになった今、近衛騎士団をまとめる者は……」


 マクレーンという言葉が俊彦の胸に刺さる。自分が先に行っていれば、死ぬことは無かったかも知れない。

 俯いているとアクセルがおめーは悪くねーよ、と頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でてくる。


「故にこそ、お前のような若い騎士が奮い立たねばならん。クラウドが抜け、マクレーンがいなくなった今こそ、近衛の真価が問われる時だ。私のような老害がいつまでも携わっていい場所ではない」

「老害など! 聞けば一番隊すら外されたと言うではありませんか! ならば、また近衛騎士団に!」

「くどいぞ、ウェストハイド。私の居場所は、近衛ではない」

「……私は」

「行け、ウェストハイド。お前ならば、クラウドや私が目指して、たどり着けなかった場所へと到れるはずだ」

「……承知しました。そちらの少年は、新しい勇者ですか?」

「そうだ。私はこれから勇者と共に戦うことになる。国のことは任せたぞ、ウェストハイド」


 ウェストハイドは目を閉じて、何か逡巡しているようだった。数秒、そのままで沈黙する。

 決意が固まったのであろう、ウェストハイドはまっすぐにアルバートを見据える。


「ラングリーズ王国は、このウェストハイドが命にかえても護ってみせます。ナイセル団長、どうか勇者と共に世界に平和をもたらせてください」


 ウェストハイドは腰の剣を鞘ごと引き抜き、左胸に当てる。ラングリーズ式の敬礼のようなものだろう。アルバートは深く頷いてから、ウェストハイドに背を向けて歩きだした。


 同じように、ウェストハイドが逆方向に歩いて行く音が聞こえたが、数歩歩いて立ち止まる。


「これは、ただの独り言なのですが……この先の浴場では、現在昼の湯浴みが行われています。勇者が共にいるため、警備は非情に手薄……特に東側の露天スペースにつながる道は元から険しい為、警備を配置していません」


 また、ゆっくりと歩く音が聞こえ始める。

「……ご武運を」

 その言葉と共にウェストハイドの足音は廊下を曲がり消えていった。


 あの真面目そうな騎士が、なぜいきなり風呂の情報などを喋りだしたのか。


 不思議に思い二人を見ると、アクセルはウェストハイドが去った方向を向いて五体投地し、アルバートは目に手を当てて天を仰いでいた。



こいつら、アホだ。