第23話

 弓矢による援護を受けてから周囲の魔物を殲滅するまで、それほど時間はかからなかった。

 数こそ多かったが一体一体の魔物は弱く、歴戦の騎士であるアルバートや、アルバートに師事し、勇者としての力を振るう俊彦の敵ではなかった。


 しかし、いかに弱い魔物とはいえ今回のように数を頼みに攻め続けられれば、窮地に陥ってしまう。


 今回は運良く窮地を脱することができたが、この人数で同じ状況になれば、次は助からないかもしれない。

 他国を刺激しないよう配慮して、聖都ファティマまでは最小限の人数で行動することになったが、ラングリーズ領内ですらこのような状況になってしまった。

 ファティマまでの距離は遠くは無いが、先の侵食の影響も考えるとこれからの旅が不安になる。


「なんとか、助かったな」


 倒した魔物を眺めながらこれからの旅の事を考えていると、残敵を倒していたアルバートが戻ってきた。


「弓矢による援護が無ければ危なかったですね」

「かなりの数の矢が射掛けられてましたが、近くを巡回中の部隊でもいたのでしょうか?」

「いや、この辺り……レイル大森林は亜人の領域との緩衝地域だ。亜人を刺激しないためにも、森の中にラングリーズの部隊が入り込むことはない」

「では、いったい誰が私たちを助けてくれたのでしょう?」


 俊彦に背負われながらアイシャが疑問を口にする。その言葉に応じるように前方の茂みがガサガサと揺れる。


「いっやー危なかったッスね。たまたま通りかかったオレに感謝して欲しいッス」


 茂みから出てきたのは、糸目の少年。身長は男にしては少し低めで、体型は細身。眉にかかる程の茶髪で目は開いているのか閉じているのか分からないほどに細い。

 手には少し丈の短い弓を持っており、肩から矢筒をかけていた。

 俊彦と同じくレーベンガルズに召喚された日本人、御手洗みたらいつかさである。


「ツカサ!? なぜお前がレイル大森林にいるのだ?」

「いやぁ、ちょっち嫌なことがあって憂さ晴らしに狩りをしにきたッス。おっちゃんこそ、なんでこんなとこにいるッスか? いつまでも砦にこないから、由那っちが心配して探しに行ったッスよ?」

「む、そうなのか。運悪く侵食に遭遇してしまってな。魔物を避けているうちにこの森に迷い込んでしまったのだ。しかし、助かったぞツカサ。お前が来てくれなければ、危ないところだった」

「どーいたしましてッス」

 

 司はアルバートから礼を言われてまんざらでもなさそうな態度で返事をした後、俊彦達の方に目を向けた。

「そっちのお二人は誰ッスか? にーさんの方は、見た感じオレと同じ勇者ぽいッスけど」


 そう言って首を傾げながら俊彦を見つめる。


「あ、初めまして……だよね? 少し前にレーベンガルズに来た、巽俊彦です。さっきは本当に助かったよ、ありがとう」

「ああ、あんたが噂の。オレは御手洗司ッス。四番隊でパシリやってるッスね。これからは司って呼んで貰っていいッスよ」

「わかったよ司。じゃあオレのことも俊彦って呼んでくれな」

「トシぽんね。りょーかいッス!」


 いきなり変なあだ名をつけられてしまった。

 俊彦への挨拶を終えた司は、俊彦に背負われている女性に目を合わせた。


「じーーっ」

「あ、あの、どうされましたか?」

「……何してるッスか?」

「は、な、なんのことでしょうか…っ! 私は魔術師のアイシャですよ! ツカサさんのことは知らないですよ!」

「じーっ。…………ま、いっか。司ッス。よろしくッス」


 アイシャとよくわからない挨拶を交わした司は、周囲を見渡しながら怪訝そうな顔をしていた。


「どうかしたんですか?」

「なんか、数多くないッスか?」

「そうですね……レイル大森林に生息している魔物は、生ける屍アンデッドが中心だったと思うのですが……」

「んや、ここ動物とかも結構いるッスよ?」

「ここへはよく来るのか、ツカサ」

「まー、亜人の領域との緩衝地域ッスからね。ちょいちょい様子見がてら狩りをしに来てるッス。でも、今日はなんかいつもと感じが違うッスね」

「侵食の影響ではないのか?」

「いやぁ、それにしては世界に定着してる魔物が多すぎッスね。侵食で出てきてすぐの魔物だったらすぐ消えるはずッス」


 司は魔物の死体を調べながら続ける。


「……生まれてからあまり時間は経ってないぽいッスね。侵食以外でこれだけの魔物が発生したとしたら、異常ッス」

「たしかにそうだな。この魔物達はハガロの廃砦から私達を追ってきた魔物だ。あそこに何かがあるのかも知れん」

「ハガロの廃砦ッスか……ちょっち見てこようかな」

「まだ魔物が残っているかも知れん。一度ザマ砦に戻って援軍を連れてくるべきではないか?」

「それもそうッスね。アーさんも怪我してるみたいだし、一度帰るッスかね」

「それが賢明だろう。それでは行くか」

「帰り道はおまかせください!えっと、ここがこうで、こうだから…トシヒコ様、右です!」

「こっちだね。それじゃ行くよ」

「そっち、廃砦ッス」

「あれ……?」

「アーさんって結構ぽんこつッスね。道案内はオレがするッス」


 俊彦はしょんぼりするアイシャを背負って、深い森の中をひょいひょいと進む司の後を追っていった。


***

 

「あれが、新しく召喚されたっていう勇者?」

「そのようだな。神器を顕現していると聞いたが、その力を十全扱えるわけではなさそうだ」


 レイル大森林にあって、一際高い樹の上に、去りゆく俊彦達を見つめる影があった。


「で、どうすんの?」

「もう少し様子を見よう。どの道彼らはこの森から出ることはできん」

「りょーかい。んじゃ、バレないようにやりましょ」


 二つの影は樹上から跳躍し、森の闇に溶けるに消えていった。