第5話

「よう! 今から練兵所かい、嬢ちゃん!」

「あー! ゴルダのおっさんやー! なになに、おっさんも今から訓練するん?」

「ああ、久しぶりにあいつが来てるって聞いたからな。ちょっと捻ってやろうと思ってよ!」


 伽奈美と親しく喋っているのは、身長二メートルはあろうかという大男だった。金属製の鎧を身にまとい、巨大な斧槍、ハルバードを担いでいる。右の目尻から顎にかけて走る大きな傷痕が目についた。


 俊彦の存在に気がついたのか、いかつい風貌に似合わず青く澄んだ瞳が好奇の色をなしてこちらを見る。


「お! こっちのひょろいのが新しい勇者か? オレはゴルダ。ゴルダ・マクレーン。近衛騎士団の千人長だ。よろしくな!」

「ええっと、俊彦…巽俊彦です。まだこの世界にきて間もないので、右も左もわからないけど、よろしくお願いします」


 差し出された大きな手を握り返す。ゴツゴツとした手の皮は厚く堅い。鍛え上げられた巨体も合わさり、鋼鉄を思わせた。


「ゴルダのおっさんはな、『巌鉄がんてつ』っていう異名を持つ凄い騎士さんなんやで! なんでも随分前に召喚された勇者の再来とか言われるくらいやね」

「たはは、そんな大した騎士じゃねえがな。名に負けねぇように日々訓練ってとこだ。ま、ここで会ったのも何かの縁だろう。練兵所まで一緒に行こうぜ兄ちゃん」


 他愛もない話をしながら練兵所への道を行く。ゴルダが喋り、表情を変えると頬の傷が動くのが気になった。


 嫁の飯が微妙に不味いだとか、酒は裏通りの商店が美味いだとか。嫁の飯が不味いと愚痴ったくせに、子供を自慢したいから家に飯を食べに来いとか、話をするほどにゴルダが屈強な騎士ではなく、ただの強面のサラリーマンのように思えてくる。


 こうして普通に話をしていると、ここが異世界だということを忘れてしまいそうだった。

 空を見上げる。抜けるような青い空も、頬をなでる風も、日本と変わらない。こうして話ができる人もいる。


 これから何が待ち受けているかはわからないが、なんとかなるような気がした。


「おう、こっちだ兄ちゃん」

「どしたん、ぼーっとして? 置いてかれるで?」


 伽奈美に肩を叩かれ、少し早足に角を曲がったゴルダを追い掛ける。


 角を曲がると――


 噴水のように血を撒き散らしながら、首のない巨体が倒れていくのが見えた。