第5話

「うわあぁぁぁーーーー」

「目、目がっ目がぁぁーーーーー」


 俊彦が放った魔術によって目を焼かれた二人は両目を押さえて砂漠を転げ回っていた。


「何をしているのだ、この二人は」


 小さなな光玉とやたらに主張の強い信号魔術を確認したアルバート達は、蒼華騎士団と共に信号が放たれた場所へと向かった。

青の信号は合流の合図であり、特に緊急性が高い信号ではない。しかし、信号魔術が照らす場所にたどり着いてみると異常に巨大な青の導光ブラウレヒトの光の下で転げ回るエリアと俊彦がいた。


「ああああーーーーーーぁっぁぁーーーーっ」

「勇者!? どうした!? なにが……ぁっーーー」

「穴に落ちたな」

「なんかちょっと楽しそうですね……」


 手の施しようが無かったので、エリアの奥義で作られたクレーターで身悶える二人をしばらく見つめていた。


***

「大変な目にあったぜ。青の導光ブラウレヒトをあんな光らせるなんてディアナ以来だ……オマエ、魔術禁止な」

「まさか、あんなことになるなんて……魔術怖い……」

「で、なにがあったのだ?」


 アルバートは、ようやく復活した二人から部隊を招集した理由を聞こうと声をかける。


「あー、なんだっけな……光しか思い出せねぇや。あと砂が入って身体痒い」

「身体中が砂まみれで気持ちわるいですね。風呂に入りたい」

「いーねぇ! 風呂! サイコー!」

「で?」

「とりあえず、風呂を目指そう。それでいいよな?」

「大賛成ですね!」

「よっし! んじゃ行くか!」


 元気を取り戻したエリアが勢い良く立ち上がり、身体についた砂を払った。俊彦も同様に立ち上がろうとしたところで、偵察に出ていた赤火隊の騎士が駆け込んできた。


「報告! 東の交易中継点付近で戦闘を確認しました!」

「戦闘……そういや、戦の気配がしてたな。また魔物か?」

「わかりません。大規模な魔術の行使を確認したので、隊規に則り引き返してきました」

「……大規模な魔術だと? 大型魔獣でも出やがったか……? アイシャ、魔物の気配はあるか?」

「まだ何も感じませんね」

「どうなってやがる……ついこの前ダルバンの魔物討伐したとこだぞ……」


 エリアの言葉に不穏な空気が流れる。掃討したはずの魔物の襲撃に、安全が確保されていると言われていた交易順路、中継点付近での戦闘。

 

 先に砂漠を進んだエーコ率いる蒼氷隊そうひょうたいの安否も気になる。急いだ方が良さそうだ。


「陣形整えろ、急行軍だ。五分後に出るぞ。リナ、斥候頼む。漏らすなよ。」


 エリアの指示に部隊が慌ただしく動き始める。斥候を命じられた者はすでに陣を離れて駆け出している。


「勇者達は中軍だ。リースの指示に従ってくれ」


 呼ばれた騎士が俊彦達の前に現れ会釈をする。


「オレ達も戦えますよ、エリアさん」

「……そうだろうな。けど、今回は素直に守られといてくれ。リース、後頼む」


 騎士に指示を出したエリアは、四方に指示を飛ばしながら編成中の陣の中に消えていった。

 リースと呼ばれた騎士の指示に従い、俊彦達は陣形の中央に入り込んだ。



***


 砂漠にはいくつかの水場がある。

 砂漠では貴重な水場は、基本的に有力な部族か傭兵団が支配し、交易の拠点として栄えている。


 交易順路にある水場は、基本的に砂漠にある部族が話し合って共有されている。部族連合とも呼べる組織に依頼された傭兵団が魔物や盗賊から交易の拠点となる水場、中継点を守っていた。


「打って出るべきだ。街にこもっていても敵を倒すことはできん」

「愚問ですね。すでにこの戦、勝ちはゆるぎません」


 交易順路、最初の中継点であるこの水場は、砂嵐から水場を守るために高い壁に囲まれている。城壁にも似た巨大な砂防壁の上で、獣人と女性が言い争っていた。


「時間が経てば退くとでも? 砂漠の戦士を舐めすぎだ、神算子しんざんし


 神算子しんざんしと呼ばれた女性ーー蒼華騎士団、蒼氷隊そうひょうたいを率いるエーコ・トリスメギストスは眼鏡を上げて、防壁の外を見渡す。


 交易中継点である水場は、見事に包囲されていた。


「侮ってなどいませんよ、エンセイ殿」

「ならば――」

「なりません。いかな飛天の傭兵とはいえ、あの包囲を抜けることは難しいでしょう。今は一兵たりとも無駄にはできません」


 エンセイと呼ばれた狼型獣人は、エーコの言葉に歯ぎしりをする。


「戻ったぞエーコ殿……エンセイもいたか」

「イクフェス殿、ご無事でしたか」

「無事もなにも、防壁から弓を射るだけだ。流れ弾に当たるほど間抜けじゃないさ」

「首尾は?」

「敵の指揮官らしき者を何人か戦闘不能にした。だが、これ以上は無理だな。警戒して前にはでてこんだろう」

「上々です。では、茶でも飲みながら時を待ちましょう」

「そうだな」

「イクフェス殿まで……茶など飲んでいる場合ではないでしょう!」

「そうか? 敵が一旦後退した今しか茶を飲む機会もないと思うが」

「打って出るべきです」

「却下です。降りましょう」

 

 話はこれまでだ、とエーコはエンセイを置いて去っていく。


「先走るなよ、エンセイ。お前は――」

「主からも蒼華騎士団に従うよう厳命されています。命令には従います」

「そうか。風が強くなりそうだ。エンセイも早めに戻るといい」


 そう言い残し、イクフェスも砂防壁から飛び降りた。

 残された狼の獣人は、一人防壁から敵を睨み続けていた。



***

 二つの影が防壁から去っていくエーコの背を眺めていた。砂よけのフードをかぶっている為、顔は見えない。

 一人は大柄な男性。フードから白い髭が覗いているところを見るに、老人のようだ。

 もう一人は、長い包を抱えた小柄な男性。


「面白くなってきたのぅ。どう見る?」

「どうもなにも、俺はエンセイって獣人が正しいと思いますよ」

「ふむ。状況だけ見るとそうじゃな。しかし……」

「ここにとどまる気っすか? こんな場所で犬死は嫌ですよ、俺」

「そうじゃなぁ。いざとなれば逃げられるじゃろ。ちょいとちょっかい出してみるか」

「……わかりました。やばくなったら担いででも逃げますからね」

「おうおう、若いもんと一緒じゃと心強いわい」


 腰を叩きながら、老人が歩きだす。長い包を持った男がその後に続く。

 二人は防壁に囲まれた小さな町の中へと消えていった。