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第13話/全45話

意外な勢力

「思ったより順調に進んでますね。このまま何事もなくファタルサファルにつきそうですね」

「おう、戻ったかマルヴィン」


 先陣を行く飛天傭兵団の中ほどを歩いていたミハエルの元にマルヴィンが現れた。

 マルヴィンの言うように、行軍は順調だった。特に敵軍と遭遇することなく、一週間程の道程を進んでいる。砂漠に慣れた飛天傭兵団の進路選択、蒼華騎士団の魔術支援もあり、二人の目算の倍程の行軍速度で進んでいた。


「さすがっすね。敵に回したくない相手だ」

「そうじゃな。それで、勇者の方はどうじゃった?」


 マルヴィンはミハエルの命令で砂漠の町を出てから、勇者の一行に張り付いていた。ラングリーズの情報、兵器とさえ呼ばれる勇者の見極め。ザカート帝国によって国交を遮断されているグルガ帝国は何を置いても各国の情報が必要だった。

 危険を冒してザカート領を抜けてきた以上、持ち帰れられる物は全て持ち帰らねばならない。


「ラングリーズの状況に関しては、ミハエル様が『剣鬼』から聞き出したこと以上の情報はでなかったですね。蒼華騎士団も団長のユスティア・バレスタインの独断で、あくまで勇者トシヒコ・タツミへの支援ということにしているようです」

「ふむ。バレスタインとラングリーズの国交が開かれたわけではないか。マルドアはどうじゃ?」

「レイル大森林で魔族の大規模な侵攻があったようですね。それを機に一時的な同盟を結んでいるみたいですが、魔王軍への対処以外での連携はわかりません」

「マルドアの英雄が勇者についとるのも、その一環かのう?」

「『順風耳じゅんぷうじ』のイクフェス・ラシュルヌっすね! いや、『ファルカーサの冒険』に登場した英雄と会えるなんて思わなかったっすよ!!」

「そうじゃな。マルドアの亜人が表舞台に出るとは思わなんだ。マルドアが動き出したと見て良いということかのお」

「いや、それもイクフェス・ラシュルヌが独自に支援しているようです。マルドアが大きく動くことはないと言っていましたが……どうなんでしょうね。そこはわからなかったっす」

「ふーむ。なるほどのう。それで、勇者はどうじゃった?」


 動きを見せていた国の同行を調べたが、結局のところ深い部分についてはわからなかった。バレスタインもマルドアも、ラングリーズというよりは勇者トシヒコ・タツミ個人に対して支援をしている節がある。

 これが戦力として動き出せば、かなりの脅威だ。天秤に匹敵する武力をもった個人が


「対人戦力としては、駄目ですね。アレは人を斬れるタマじゃないっす」

「神算子の言う通りか。飛天としては当てが外れたじゃろうが……ふむ」

「オレは、アイツはアレでいいと思いますがね。ラングリーズはともかく、勇者は人々の希望になるべきっす。人を殺すのはやっぱ違うと思うんすけど」

「おぬしの英雄譚好きはさておき、ラングリーズの勇者が人の争いに介入しないというのなら、好都合じゃな」

「別に過去の勇者に重ねてるわけじゃないんですが……アイツはなんか違うんすよ」

「ふむ……まあよい。それより周りが騒がしくなってきのう。なにかあったか」

「みたいっすね。エンセイ殿のところに行って見ますか」


 二人が話をしている間に行軍が止まっていた。伝令らしき兵が後方へと駆けていくのが見える。

 何か問題が発生したのであろう、二人の元にも伝令が現れ前線にいるエンセイの元へとくるよう伝達された。


「ついに敵に遭遇したんですかね」

「んー敵はちょいちょい遭遇しとったが、行軍が乱れんように都度対処しとったからのお。余程の大軍と出くわしたか……とにかく行ってみよう」

「はい」


 ミハエルとマルヴィンは行軍を止めて待機している隊列を抜けて、エンセイがいる先陣へと移動する。途中、後方から走ってきた蒼華騎士団のエーコ、エリア、そしてラングリーズの勇者一行と合流した。


 先陣に辿り着くと、簡易のテーブルに砂漠の地図を広げたエンセイが待っていた。


「斥候がなにか掴みましたか?」


 エンセイの元に到着するなり、エーコは質問を投げかける。

 行軍の間、飛天傭兵団は四方に斥候を走らせ周囲の状況を常に調べていた。小規模な敵対部族や魔物に関しては行軍が乱れないように飛天、蒼華から迎撃部隊を出して対処していたが、全軍が行軍を停止したのは初めてである。


「うむ。まずはこの地図を見てくれ」


 広げられた地図には砂漠の地形や交易拠点、交易路の流れが書き込まれている。その地図の上にエンセイが丸い石を置いた。


「この石は我々だ。いまの行軍速度ならば、ファタルサファルまであと二週間といったところだな」

「随分交易路から離れてるんだな」

 

 エリアが地図を覗き込みながら声を出す。石が置かれた場所は交易路から大きく外れた場所に置かれていた。


「そうだな。現状で交易路を行くのは狙ってくれと言っているようなものだからな。我々飛天傭兵団が使う幾つか行軍路の中から状況に応じて進路を変えながら進んでいる」

「ほえーそうだったんだな。んで、問題ってなんなんだ? 道に迷ったってことはないだろうし」

「行軍は順調だ。問題はここだ」


 エンセイは地図にある一つの交易拠点を指す。丸い石が置かれた場所からは少し距離がある。


「そこだどうしたんだ? 補給ならこっちの方が近いけど」

「ファタルサファルに向かう分には、補給は必要ないから大丈夫だ。町を出る際に、各拠点の様子を探らせるために偵察の部隊を幾つか派遣したのだが、この拠点に向かった部隊が先程戻ってきたのだがな……」

「陥とされてたか」

「それならば割り切るだけでよかったのだ。問題は、その町に立っている旗印だ」


 エンセイの言葉にエリアが怪訝な顔をする。敵対している砂漠の部族が立てているならば、エンセイが言ったように割り切る方法を取るだろう。事実、いくつかの拠点が陥とされていることは周知されている。


「……ザカートがわざわざ主張するとは思えねーな。どこの国だよ、そんな訳分かんねー事してんのは」

「フィアンマだ」

「はあ!? フィアンマってあのファティマ聖王国にぶら下がってる、あのフィアンマ公国か? 意味わかんねーな」


 その場にいた殆どの者が、エリア同様に驚愕の表情を見せている。フィアンマ公国は戦とは無縁の国として知られているからだ。

 ファティマ聖王国を守る為に建国されたフィアンマ公国は、長い時の中で力を失っていった。今では逆にファティマ聖王国の庇護によってなんとか国を保っている状況だ。

 強力な傭兵が集うダルバン砂漠の情勢に介入できるとは考えられない


「どうするべきか判断に迷っている。町の周りに敵はいないようだが、防衛戦を行った形跡があるようだ」

「その町に向かいましょう。ザカートが罠を張っているにしても、フィアンマを巻き込む意図がわかるかも知れません」

「そうだな。少し寄り道になるが、放置できる問題ではないか」

「ここからの距離は?」

「通常の行軍で三日というところだな。急げば二日かからずにつけるはずだ」

「わかりました。うまくいけばその町で補給もできるでしょう。急ぎ向かいましょう」


 エーコの言葉で方針が決まると、集まっていた面々は行軍再開に向けて急ぎ足で自分の部隊へと戻っていく。

 それぞれの役割を果たすために、動き始めた軍の中、勇者達だけが目的を見いだせずにいた。


 動きのない勇者をミハエルは遠目に眺めている。従者であるマルヴィンは勇者である俊彦を気遣って声をかけに言っていた。


「……やはり、戦には向かんか。ならば放置しておいても大丈夫じゃろうな。他の勇者もあの者のようであれば……いや、今は先の事を考える時期ではないな。時がくれば、わかることじゃ」


 蒼華騎士団の騎士に誘われて、後方へと下がる勇者はやはり浮かない顔をしていた。

 

「今は、フィアンマじゃな。場合によっては……」


 勇者から視線を外したミハエルは、フィアンマの動きに思考を切り替えた。戦とは縁のない国、フィアンマ。

 ラングリーズ、マルドア、バレスタイン、ダルバン部族連合――


 ミハエルは時代が加速していることを感じた。その中で自らが忠誠を誓う国がどう動くのか。

 今、この時の選択が後に響く。ミハエルは一度大きく息を吐き、これからの動きの予測を立てるために思考をシフトさせた。