WEB小説

第14話/全45話

合流

 フィアンマが旗を掲げる町へは、飛天傭兵団が先行して向かうこととなった。敵か味方かもわからないフィアンマに対して、蒼華騎士団の旗印は刺激が強すぎる為だ。


 駐屯している軍を刺激しないよう、町から3km程離れた場所に陣を展開して様子を見る。


「動きはないな。警戒しているわけでもなさそうだ。こちらの動きを待っているというところか」


 同行したマルドアのエルフ、イクフェス・ラシュルヌがエンセイに告げた。エンセイもイクフェスと同意見だ。


「使いでも出すか?」

「いえ、私が行きます。その方が早い」

「私も共に行こうか?」


 イクフェスの申し出にエンセイは薄く笑みを浮かべる。

 エンセイはマルドア樹廊街じゅろうがいの生まれだった。森を出て傭兵となるまでの十数年をマルドア樹廊街で過ごした。


 幼少の頃から気性が荒く、周りに迷惑をかけては大人に叱られていた。幼かったエンセイは叱られるたびに、森の外れにあるイクフェスの家で過ごしていた。

 イクフェスは、幼いエンセイの話をよく聞き、対等に話しくれる友達のような存在だった。今思えば、子供心にそう感じていただけで、イクフェスからすれば子供として接していたのだということは分かる。


 大人になり、マルドアの長老衆と対立した時も、イクフェスはエンセイの話をよく聞き、助けてくれた。結果として追われるようにして森を出ることとなったが、イクフェスと大酒飲みのダークエルフだけは、エンセイを森の外まで見送ってくれた。

 森を出る時にイクフェスに貰った、マルドア千年樹の枝から作られたお守りは今でも懐に忍ばせている。


 恩人――親ともいえるイクフェスの変わらない姿に自然と笑みがこぼれてしまった。イクフェスは急に笑顔になったエンセイを不思議そうな顔で見ている。


「相変わらず、心配性ですな。私も、もう一人前の戦士だ。一人で大丈夫ですよ」

「そうか。いらぬ世話だったな。危険を感じたらすぐ戻ってこい」

「わかっています。では、しばし軍をお願いします」


 無言で頷くイクフェスを背にフィアンマの旗が掲げられた町へと歩いていく。


 砂漠ではほとんど遮蔽物がない。町に近づく為には隠れる場所のない砂の平地を行かねばならない。

 狙撃手や長距離魔術に自らを晒しながら歩くしかない。敵か味方か分からない拠点に一人無防備に近づくのはかなり危険である。普通であれば、もっと町に近い場所まで軍で移動する。


 しかし、エンセイは戦闘経験が少ないフィアンマに軍の圧力をかけることを嫌った。傭兵は、金にならない無駄な戦はしない。


 町まであと五百メートル程まで近づいた所で、エンセイの頬を高速で何かが掠った。エンセイの頬を掠った何かは、ポス、という少しマヌケな音を立てて、砂漠に小さな穴を穿つ。


 狙撃だ。


 銃弾が発射される音が聞こえなかったことから、魔弾を放つ魔導銃、もしくは魔術であることが予測される。

 

 魔弾が頬を掠ったにも関わらず、エンセイは止まる事なく歩き続ける。

 数歩歩くと目の前で火花が散る。足元に魔弾に砕かれた矢が落ちた。

 

「あの距離から狙撃手の魔弾を撃ち落とす、か。腕は衰えていないようだ」


 二度、三度とエンセイの周囲で火花が散る。歩み続けるエンセイはイクフェスを制するように手を上げた。

 

 火花が止み、魔弾がエンセイを掠める。


「まったく、趣味の悪い」


 エンセイは魔弾の雨の中を躊躇なく走り出した。獣人の脚力は人のそれを大きく上回る。

 魔弾をかいくぐり、瞬時に町との距離を詰めたエンセイは大きく跳躍して、防壁に飛び乗った。


「おう、お疲れエンセイ」


 防壁の上には長い煙管きせるを咥え、銃身の長い狙撃用の魔銃を持った男が一人、けだるそうに胡座をかいていた。

 

「戯れが過ぎますぞ、シゲン殿」


 シゲンと呼ばれた中年の男は、吸い込んだ煙草の煙を吐き出しながら、不敵に笑った。



***


「おうおう、壮観だなこりゃ」


 シゲンは咥えた煙管で煙草をふかしながら、町へと入ってきた蒼華騎士団を見張り塔から見下ろしていた。


「あれが、大陸最強と噂される蒼華騎士団…」

「嬢ちゃんの国にゃ、あれ程の軍はいねぇだろ」

「これは手厳しいですな、シゲン殿」


 シゲンの横には青髪の少女、少女の横に線の細い、いかにも文官という出で立ちの青年が立っていた。そして少し後ろに二人を守るように老齢の騎士が控えている。


「して、これからどうされるのですか?」

「ま、蒼華の大将……は来てねぇみたいだな。隊を率いてるのは神算子か。そいつと、うちのエンセイとで、ちょいとお話だな」

「僕達はどうすればいいですかねぇ。いちおう、町にはうちの旗、掲げてるんですが」

「どうせ暇だろ? 付き合えよ。嬢ちゃんもどうだ?」

「わ、私も出ていいんですか!?」

「姫が出られるならば、私も共に」

「いいぜいいぜ。んな堅っ苦しい会議にゃならんだろうしな」


 シゲンは軽返事をしながら、視線を蒼華騎士団へと向け、煙草を一吸いする。隊列を組んだ蒼華騎士団は堂々と町の中へと入っていく。兵士一人一人に隙がなく、一糸乱れぬ隊列は練度の高さを伺わせた。


「凄まじい軍ですな。敵には回したくはない」


 脇に控えていた老騎士がシゲンの隣に来て話しかける。青年と少女は噂に名高い蒼華騎士団と直接話しができることに興奮しているようで、二人で盛り上がっていた。


「そうだな。女ばっかだからちったあ見栄えするか、くらいに思ってたが、ありゃやべぇな」

「勝てますかな?」

「やり方次第だな。爺さんでもやりようによっちゃ、勝てるだろ?」

「指揮する軍次第ですが……老いぼれには、難しいですな」

「ま、今回はやり合うことはないだろ。見るもん見たし、行くかね」


 シゲンの言葉に頷いた老騎士は、話しに花を咲かせている少女と青年を呼びに行く。


「さて、これで駒はそろったな。戦なんざ面倒この上ねえが、やられたままってのもな」


 煙草をふかしながら、シゲンは気だるそうに見張り塔を降りていく。

 青年と少女は期待に満ちた顔でその後を追っていく。


 一人険しい顔をした老騎士は、最後尾を守るようにゆっくりと見張り塔を後にした。