WEB小説

第15話/全45話

帝国の目的

「よく来てくれたな。孤立しちまって困ってたところだった」


 小さな町の中央にある広場に主だった達が集まっていた。

 蒼華そうか騎士団 蒼氷隊隊長、神算子しんざんしエーコ・トリスメギストス。同騎士団赤火隊しゃっかたい隊長、急先鋒きゅうせんぽうエリア・アイゼンガルド。

 飛天傭兵団を率いる獣人忠犬ちゅうけんエンセイ・グラッドにグルガ帝国の老将、八咫烏やたがらすミハエル・ベルゲングリューンと従者の騎士小烏こがらすマルヴィン・ブッフバルト。

 ラングリーズ王国より聖剣の勇者トシヒコ・タツミ、剣鬼けんきアルバート・ナイセル、宮廷魔術師アイシャ。フィアンマ公国の三人。そして――


「俺は飛天傭兵団の副団長やってる、シゲン・アリム・ラシードだ。よろしくな」


 飛天傭兵団副団長にして、百計ひゃっけいの異名を持つ軍師シゲン・アリム・ラシード。

 飛天傭兵団の躍進は彼の功績が非常に大きい。渾名に称されるように、数多の策や計略を用いた戦いをする、『八咫烏』『神算子』と並び称される軍師だ。


「しっかしまあ、随分と有名人が集まったもんだな。名前だけで国でも陥とせそうだ」


 名のある将帥達の顔を眺めながら、シゲンは煙管を吸い込み煙を吐き出した。シゲンの言葉に大きく頷いているマルヴィンの横に立つエーコが、鬱陶しそうに煙を払いながら前へと出る。


「孤立して困っていたと言う割には随分と余裕がありますね。後ろに控えている方々は、フィアンマの方でしょうか?」

「お、そういや紹介すんの忘れてたな。嬢ちゃんが言う通り、フィアンマの者達だ。こっちの爺さんは知ってるやつも多いんじゃないか?」


 シゲンの言葉にグルガの老将とラングリーズの騎士が頷いている。その様子を見たエーコはすぐに得心がいったのか、口を開く。


「槍の名手、ジュラール・ガミラス将軍とお見受けします。バレスタインは蒼華騎士団、エーコ・トリスメギストスと申します。以後、お見知りおきを。失礼ですが、後ろのお二方もフィアンマの騎士で在られますか?」

「あわ、わた、わたしは……」


 シゲンの後ろに控えていた若い女性は妙にあたふたしていた。エーコがその姿に首を傾げていると横から文官風の男性が助け舟を出す。


「あはは、この子は蒼華騎士団に憧れを抱いていてね、いきなり『神算子』殿に声をかけられて焦ってしまったみたいだ。もうしわけない。かくいう僕も吟遊詩人が唄う蒼華騎士団の詩は大好きさ」

「はあ……それは、ありがとうございます。それで、貴方達は何者なのでしょうか?」

「おっと、僕としたことが話がそれてしまったね。では、改めまして……僕はグラント。そしてこの子は……」

「フィリア・コーウェンです。お、お会い出来て光栄です!」


 フィリアと名乗った少女は余程緊張していたのか、ギュッと目を閉じて深く頭を下げた。

「…………」

 少しの間頭を下げていたフィリアだが、周りの反応がないことに気が付き、恐る恐る顔をあげると集まっていた者達は片膝をついて頭を垂れていた。ただ一人、状況が飲み込めていないようでキョロキョロと視線を泳がせていた俊彦と目が合う。


「えっと、こちらこそ、光栄……です?」

「……」

「……」

 

 どうしていいか分からずに見つめ合っていた二人だが、状況を理解し始めたのか、フィリアの顔が赤く染まり始める。それを見たグラントと名乗った若い男と、シゲンはくつくつと笑い始めた。


「ははは! やっぱおもしれえな、フィリアの嬢ちゃんは。フィアンマ王族の証でもあるコーウェン姓を名乗ったら、そりゃこうなるだろうよ」

「あははは、フィリアは世間を知らないから、仕方ないね」

「だだ、だって、私の国の人と違うのに、礼を取られるなんて思わないよ! そうだよね、ジュラ……あれ、ジュラールも笑ってない!?」


 フィリアは恥ずかしさから逃げるように脇に控えていた老騎士、ジュラールに助けを求めようとしたが、ジュラールも手を口に当てて小刻みに震えているようだった。


「ん…私…ごほん。私は笑ってなどいませんぞ。ところで、そちらの少年」

「オレですか?」

「コーウェンの名を知らないと見ますが……何者ですかな?」

「えーっと、オレはちょっと世間に疎くて、そのなんかすんません」

「フィリアと一緒だねぇ」

「叔父様!!」

「ははは、まあ、お前らのやり取りは見てておもしれぇが、そろそろ話を進めさせてもらっていいか?」

 

 シゲンの言葉に三人はハッとして話を止めた。未だ片膝をついて頭を垂れている各国の騎士達を思い出して慌て始めたフィリアを制して、落ち着いた様子でグラントは一歩前へと足を進めた。


「臣下でもない皆様に礼を取らせたまま失礼いたしました。先程は自己紹介が足りませんでしたので、改めて。私はグラント・コーウェン。フィアンマ公国では大公の地位についています」


 グラント・コーウェン。フィアンマ公国の王弟であり、大公の地位にある青年は、先程までの軽いノリを隠して王族らしい気品のある声で話始めた。


「といっても、家格だけ高くて大した戦力もない小国のなんちゃって王族ですからねぇ~。というわけでですね、こちらのシゲン殿のように、気軽に接してくださると助かります。フィリアもそっちの方がいいよね?」


 と思いきや、さっそく元の調子に戻ってその装いを崩す。横に立っているフィリアも、グラントの意見に賛成なのか年相応の少女らしく可愛く頷いている。一人、老騎士のジュラールだけが頭痛を抑えるように眉間に指を当てていた。


「ま、こいつらがそう言ってんだから軽くやろうぜ。そんな片膝ついた状態じゃ話聞くのもしんどいだろ」


 シゲンの言葉に納得したのか、エーコ達は膝をつくのをやめて立ち上がった。


「フィアンマ王族っつったらファティマに連なる聖なる家系だから、もっと礼儀に厳しいと思ってたぜ」

「今じゃ自領を魔族から守るのやっとな弱小国家さ。世界のために戦っている蒼華騎士団や、砂漠を守る飛天傭兵団、ラングリーズの勇者に膝をつかせるなんて、それこを礼を失した行為さ」

 膝をついて固まった関節をバキバキと鳴らしながら、エリアが零した独り言にグラントが少し暗い面持ちで答えた。


「自領を守るのもやっとなフィアンマ公国の大公と第一王女が、なぜダルバン砂漠に?」


 グラントの自国を悲観するような発言に対して、エーコが質問を返す。


「それは……」

「ま、こっからは俺が説明した方がいいだろ。どの道、こいつらも巻き込まねーとどうにもならんしな」

「……何から何まですまないね、シゲン。我が国だけでは……どうにも……」

「気にすんな。砂漠が巻き込まれてなきゃ、俺も関わる気はなかったんだ」

「お二人だけで話されては話が見えませんが?」


 本質を避けるように続けられていたシゲンとグラントの話をエーコがピシャリと止める。


「すまんすまん。ザカート帝国が砂漠に介入し始めてるのは知ってるな?」

「直接相対した訳ではありませんが、ベルゲングリューン卿のお話しと現在の状況を見れば、そうなのでしょう」

「なんの為に砂漠に介入しているかまでは知らんだろ」

「ザカートの糞は自分の領土を増やすことしか頭にねーからだろ。ったく、めんどくせぇ」

「確かに面倒だな。でもな、それだけなら、わざわざ蒼華が砂漠を通る時期を選ぶことはしねぇよ、あの国は」


 吐き捨てるように言ったエリアの言葉をシゲンが否定する。

 

「フィアンマ公国の動きに合わせた、ということでしょうか。それにしては準備が整いすぎていると思いますが」


 この地にフィアンマの軍がいることから、エーコはザカートの狙いがフィアンマ公国にあると予測した。しかし、先の戦いでは蒼華騎士団の戦力を見越した兵力を集めていたように思える。


「やつらは各地にすぐに動かせる戦力を用意しておる。蒼華の動きに合わせて動かしたのじゃろう。数はそろっておったが、それ以上の物ではなかった」


 エーコの疑問にミハエルが答える。ザカート帝国と長く対峙しているグルガ帝国の将の言葉に皆納得した表情をしている。


「二人の言う通りだな。ま、それでも俺達とあんたら以外は良いようにやられてるようだが……ザカートからすりゃ、本命を逃してるわけだからな。こっからはなりふり構わずくるだろうさ」

「なりふり構わず? それほどにフィアンマ公国からきた、この者達に価値があると?」


 シゲンの話を聞いたミハエルは、フィアンマ公国からきたという三人に目を向ける。王弟に王女、そしてフィアンマ随一の武将。フィアンマ公国では価値のある者達ではあると思うが、ザカート帝国がなりふり構わずに手に入れようとする程の価値は無いように思える。


「こいつらにゃ、大した価値なんてねーよ」

「それはそれで厳しいお言葉ですねぇ……返す言葉もありませんが」

「では、ザカートは何を目的に砂漠に介入したというのですか?」


シゲンは、気だるそうに煙管で肩を叩きながら、エーコの問いかけ……集まった者達が求める答えを口にした。


「ザカート帝国の目的は……聖女だ」