WEB小説

第20話/全45話

とある日の昼下がり

「やー今日もいい天気ですね~。洗濯物がよく乾きそうです」


 洗濯物を入れた籠を抱えた少女が、庭に建てたれた物干し竿に洗濯物を干している。少女は楽しそうに鼻歌を歌いながら、慣れた手つきで洗濯物を干していった。

 

「さてと、次はお掃除ですね。今日も頑張ろう!」


 誰に言うでもなく、少女は一人声を出し、建物の中へと入っていった。

 少女が入っていった建物は古びており、ところどころの壁に罅が入っている。木造の扉は蝶番が錆びているのか、扉が閉まる時に鈍い音を立てていた。古びてはいるが、建物の造り自体はしっかりとしているようで、人が住むのには問題はなさそうだった。


 ダルバン砂漠中央から少し南に離れた場所に、小規模な街がある。豊かな緑に囲まれた街だが、流砂の関係で交易路から外れているため、人の往来は殆どない。

 その街は部族や傭兵との関わりがない独立した街だった。砂漠では流砂や気候、魔物の分布の影響でこういった独立した街が点在していた。


 豊かな緑があるにも関わらず人の少ない街。その街から少し外れた、小高い丘の上に人を避けるようにして、その建物はあった。


「しまった、お水を汲んでくるの忘れてました!」


 少女は掃除のための水を汲むために、裏手にある井戸へと向かった。

 井戸ではずぶ濡れになった金髪の女性と、穴が空き水が漏れている桶を持った茶髪の女性が佇んでいた。


「フーナさん、それ壊れちゃったんですか?」


 二人の姿を見た少女は壊れた桶を持った茶髪の女性に声をかけた。フーナと呼ばれた茶髪の女性は心底不思議そうな顔をして水が漏れている桶を持ち上げる。


「これ、壊れてます? ティリアさんちょっと見てもらってもいいですか」


 フーナは明らかに水が漏れている桶を、思った以上の勢いでティリアと呼ばれた金髪の女性の前に突き出した。桶に残っていた水が飛沫となってティリアの身体を濡らしていく。


「見るまでもなく壊れていますね。修理するので今日の掃除は控えてください」


 自らの身体が濡れたことを気にもとめず、ティリアは壊れた桶を受け取った。


「お掃除できないなら、先に朝御飯ですね。今日は私が作ります!」

「アリッサが作るなら私も手伝いますね! ティリアさんは手伝わせてくれないから!」

「朝食は私が作ります。二人は朝の日課をお願いします」


 ティリアは、二人が意気揚々と朝食を作りに行こうとするのを止めた。表情は大きく変わっていないが、若干目が据わっているように見える。


「ええっと、いつも悪いで――」

「大丈夫です。食事を作るのは私の役目でもあります。二人は自らの役目を果たしてください」

「わ、わかりました」

 

 食い下がろうとしたアリッサだったが、言い切る前にティリアに止められてしまった。いつもの口調、いつもの表情なのだが、言い知れぬ威圧感を感じたアリッサはすごすごと引き下がった。


 二人が日課の為に建物へと入っていったのを確認したティリアは、濡れた髪をかき上げて水を払った。まだ身体は濡れたままだったが、穴の空いた桶で料理を作る水を運ぶなら、また濡れることになる。

 それに、雪国出身のティリアからすると、ここは少々暑すぎた。井戸から水を汲み取ったティリアは、穴から漏れる水が身体にかかるように、肩に担いで調理場へと向かった。


 空いた穴はそれほど大きくはないが、ティリアが歩くのに合わせて四方に水を飛ばしている。あまり手入れがされていない外壁が、水を浴びて少しだけ汚れを落としていた。


 建物の正面口に立ったティリアは、ふと立ち止まった。両開きの扉には金属製のエンブレムが打ち付けられていた。薄汚れたエンブレムが気になったティリアは、腰に下げた手ぬぐいを漏れる水で濡らし、エンブレムの汚れを丁寧に拭き取った。


「ん。これでよし」


 長年放置されていたせいか、錆びついていたエンブレムの錆と汚れが幾分とれたことに満足したティリアは、建物の中へと入っていく。


 二枚の翼に秤が付けられた紋章が刻まれたエンブレムが、陽光に照らされて鈍く光っていた。