WEB小説

第22話/全45話

空の旅

 エイザンから目的地まで普通に移動すれば一週間近くはかかる距離だ。砂漠の道は険しく、移動用の乗り物なども普及いないため、基本的に徒歩での移動となる。


 地竜ランドリザード飛竜ワイバーンといった、騎乗できるモンスターがいないわけではないが、飼育や調教の面で一部の魔物使いモンスターテイマーの専売となっている。

 

「てことで、オレに感謝してくれよな」


 カルが連れているのは、巨大な鷲の上半身に獅子ライオンのような身体を持つモンスター、鷲獅子グリフォンだ。

 鷲獅子グリフォンは、知能が高く、人に懐くことから比較的飼育は容易だとされている。しかし、人を乗せて飛べる程の調教をこなすのは非常に難しい。


 また、レーベンガルズの空は好戦的な魔物が多い。飛竜ワイバーン鷲獅子グリフォンを使った空路を開拓しようと試みた者は多いが、安全な空域の確保は未だできていない。


「感謝するもなにも、カレンからの借り物。魔物避けの巫術が無ければ移動できないのだから、感謝は私に」

「まあ、どっちにも感謝だ。こいつがいて助かったぜ」


 オーノウスは二人に感謝を述べ、鷲獅子の背を撫でた。撫でられた鷲獅子はキュイ、と甘えたような声を上げてオーノウスに頭を擦り付けてじゃれている。


「んじゃ行くか」

「行くのはいいけど、結局なにしに行くの、オレ達」

「説明も含めて空の上だ。手綱は俺が握る。ルミアは中央で魔物避け、カルは後ろだ。乗れ」

 

 三人は順番に鷲獅子に乗り込む。商工ギルド秘蔵の鷲獅子は大きく、添えつけられた鞍に三人が乗っても少し余裕があった。


クルォォォ――


 鷲獅子が嘶き、周囲に風のマナが集まる。集めたマナを巨大な翼に纏った鷲獅子が大地を蹴って空へと飛び出した。

 みるみるうちに大地が遠ざかり、エイザンの街が小さくなっていく。

 

「ルミア、魔物避け頼む」

「指示、承知。対象、識別。術式、展開」


 ルミアが手に絡めている宝石のついた鎖を宙を舞う。宝石は光を発しながら雲を突き抜け天へと突き刺さる。

 貫いた天に巨大な陣が展開され、紫色の光が天を駆ける鷲獅子の周りを舞う。空を飛ぶ魔物に効果的な巫術結界が展開された。


 空を生息圏とする鳥や龍といった魔獣は、能力を低下させる術を嫌う。空を飛ぶには緻密にな魔力操作と、風を読む能力が重要となる。ルミアが展開する巫術結界は空を飛ぶ魔物の感覚を狂わせ、飛行を困難にする効果があった。


 ルミア・エルディット。オーノウス・リュースが頭目を務めるエイザンの暗部組織、紅蓮ぐれんあぎとに所属する巫術師シャーマン

 

 巨大な宝石をチャームとして、鎖につながれた『フーチ』と呼ばれる占術を主とした魔道具を扱う魔術師であり、巫術と呼ばれる特殊な魔術を行使する。

 後ろの席で呑気に景色を眺めているカル・スヴェンと同じく、元は他国の警察組織に属していた。

 生来、真面目な気質であり、融通が利かないため組織内の小さな不正や間違いを指摘し続けた結果、居場所を失って国を追われたところを、オーノウスに拾われた。

 

 不正を嫌って国を追われた者が、法も通用しない闇に生きる組織に属することとなったのは皮肉だが、思いの外馴染んでおり、本人も気にはしていないようだった。


「完了しました。これで少しは……」


 術式の展開が完了し、鷲獅子の周囲に青い球形の結界が広がった。


「あのールミアちゃん、オレもちょっち身体重いんだけど、術、間違ってない?」


 後ろに座っているカルが抗議の声を上げた。カルの声に振り向いたルミアは、カルを一瞥してすぐに前を向く。


「巫術は私が敵と認識した者に効果を及ぼす。以上だ」

「おお! なんて便利な結界――ってオレ、ルミアちゃんに敵認識されてるの!? 悲しみっ!!」


 ルミアの説明にカルがぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。カルの周囲には青い煙のような物がまとわりついていた。


「ルミア、冗談もほどほどにしとけよ」

「委細承知」


 オーノウスに注意されたルミアが、フーチを振るとカルの声が小さくなった。


「ル、ルミアちゃん……さっきより、ツライ。冗談じゃなく殺しにきてない、コレ?」


 流石にやりすぎたかと、ルミアがフーチの先についた宝石を軽くカルの頭に当てると、周囲にまとわりついていた煙が霧散した。


「お、楽になったぜ! ホントに死ぬかと思った!!」

「私の巫術に人を殺傷せしめる力はない。冗談で死ぬなら、それはそれで必要ない人材と言える」

「あーひっでー! お頭ぁ~ルミアちゃんがヒドイよーぅ」

「いつも通りだろ。ま、ルミアも遊ぶのはほどほどにしとけよ」

「承知」


 オーノウスに叱られて、でもルミアは薄く笑みを浮かべていた。真面目が過ぎて国を放逐された自分が、仲間を相手にいたずらをするなど、以前では考えられないことだった。


 紅蓮ぐれんあぎとはエイザンの闇を支配する暗部組織だ。しかし、暗部組織とはいえ、厳格な戒律や法の元に作られた組織ではなく、光の下では生きられないハグレ者が生きるために集まり、生まれた組織だ。

 故に、性格の荒い者や適当な者、ノリが軽い者も多い。ルミアのように真面目な者もいる。癖は強いが、能力は高い。そういった、他の組織では生き辛い者達を集めて、力をつけてきたのが紅蓮ぐれんあぎとだった。

 

 癖の強い者達と関わる内に自分も変わってきたのだろう。何れにせよ、ルミアにとって紅蓮ぐれんあぎとは居心地の良い場所だった。そして、自分を拾い使ってくれるオーノウスに信頼を寄せている。


「オーノウス様、行き先は?」


 オーノウスの命令であれば、例えそこが死地であっても躊躇することはない。それは後ろにいるカルも同じだろう。しかし、情報は必要だ。自らの命を使うにしても、最大限の効果を得たい。ルミアはオーノウスから下される命令には、自分の全ての力を使い切る覚悟で挑んでいる。


「ダルバン砂漠中央部。場所は『パルム・オラティオ』って村だ」

「パルム・オラティオ? 聞いたことのない村ですね」

「そりゃそうだろうな。部族由来じゃねぇし、地図にも載ってねぇ。いわゆる隠れ里ってやつだ」

「そこに、目的とするモノが?」

「そうだ。各国の軍が動いてるが――っと、ちょっと風が強くなってきたな。高度上げるぞ」


 オーノウスが手綱を退くと鷲獅子が翼を羽ばたかせる。集められた風のマナが巨大な鷲獅子の身体を更に高空へと押し上げた。


「乱気流だな。おしゃべりするにゃ、ちょっと荒れ過ぎか。アレ抜けたらこれからの動きを教えてやる。落ちねぇようにしっかり捕まってろよ!!」

「承知。カルは腰に手を回すな」

「ぐへっ……りょーかい……」

「よっしゃ、行くぜっ!!」


 オーノウスの掛け声と共に鷲獅子が速度を上げ、目の前で渦巻くように荒れ狂う風へと突き進んだ。