WEB小説

第30話/全45話

大盤振る舞い

 日が西に沈み、夜の帳が下りる。青白い月光が砂漠を照らす。

 砂漠の夜は静かだ。今日のように風の無い日はほとんど無音であり、空気が澄んでいるため、月が明るい日は遠くまで見渡すことができる。


 残念ながら、今は砂漠の夜に訪れる静寂も、澄み渡った空気もそこにはないが。


「敵、来ました。距離五百。数は――」

「数えるのも面倒っと。まっすぐこっちに向かってくるねぇ。なんか魔物が好きな食べ物でも置いてる?」


 目の前には魔物の大群が迫っていた。方向がずれて通り過ぎる……ことはなさそうだ。カルが零したように、この教会に向けてまっすぐに突き進んでいる。


「ぼちぼち最初の仕掛けだな」


 オーノウス達は教会の正面、三層に施した結界の一層目と二層目の間で魔物の行軍を見守っていた。

 魔物の進路上には、移動商店『銀の小鳥』に蓄えられていたアイテムをふんだんに使って、多数の罠を仕掛けていた。時間にあまり余裕がなかったため、罠の設置はかなり雑だが、魔群暴走スタンピードの魔物たちはある種の興奮状態にあるため、発動することができれば嵌ってくれるはずだ。


「距離四百。最初の地点に到達します」


 ルミアが敵の距離を測って報告すると、ほぼ同時に戦闘を走る魔物の一団が吹き飛んだ。


「よしよし。良い感じだぜ」

「むむむ! 今のはもしかして爆雷礫の術符じゃないですか!?」

「お、さすがだなアルマ。いやはや、銀の小鳥も侮れねぇな~」

「ちょちょ、待つです! 高級魔具は駄目って言ったですよ!?」

「そうだっけか? そんな高くねぇだろこれ。あ、そろそろ次だな」


 罠の発動に歓声を上げる仲間達を他所に、アルマはオーノウスに突っかかっていた。オーノウスは何処吹く風、という面持ちで次の罠の発動を見ている。


 最初の爆発でかなりの数の魔物が吹き飛んだはずだが、魔群の勢いは止まらない。屍を踏みつけ、吠えながら前へ前へと突き進む。

 進む先には二段目の仕掛けが発動し、魔群の行進を阻むように巨大な炎の壁が立ち昇っていた。


「あああああ!!! 轟炎壁の宝玉まで使いやがったですか! あんな凄い壁、何個使ったですか!!?」


 喚くアルマの声は炎に巻かれた魔物が上げる悲痛な叫びにかき消された。巨大な炎の壁を前にしても、興奮状態にある魔物は足を止めること無く、次々と炎に飛び込んでいく。足を止めてくれればと期待したが魔群暴走スタンピードは止まらない。

 燃え盛る魔物を越え、自らも火に巻かれながら突き進む魔物の群れの前に、炎の壁はあっけなく消え去った。


「くぅ……もうさっきので止まってほしかったです……次はなにを――」

「カル、ルミア、前でるぞ」


 オーノウス達は、なにやら巨大な大砲を担いで結界の外へと歩いていく。


「んまーー待つです! それはめちゃ高いです!」

「いーじゃねーかよ。ほこりかぶってたし。てことで」

「一発いくらすると思ってるで―――」


どーん――どどーん――


 轟音が鳴り響く。三人が構えた大砲から巨大な砲弾が射出され、迫り来る魔群を蹂躙した。休む事無く砲弾の雨が降る。


「ああ、そんな連続で撃っちゃだめです……こわれ、こわれちゃう……こわれちゃうですよ」


 喜々として大砲を放ち続ける三人の横で、アルマは涙目になっていた。しばらくして、アルマの呟いた通り、大砲はオーバーヒートして沈黙した。


「おっさん、次!」

「うむ、これだな」

「ああああああ!! だだだ駄目です! それだけは駄目です!」


 アルバートが抱えているのは黒く鈍い光を放つ巨大な宝玉だ。アルマは宝玉を取り返そうとするが、オーノウスに首根っこを掴まれて足をバタバタさせるしかできずにいる。


「これはどうやって使うのだ?」

「魔具っつのーは、起動の魔力込めてぶん投げりゃだいたい動くもんだ」

「なるほど。承知した」

「承知しちゃだめですーーーーー」


 必死に止めようとするアルマを無視して、アルバートは適当に魔力を込め、宝玉を力の限り投擲した。

 魔群の上空に到達した宝玉は黒く重々しい光を放つ。光は球状に広がり、黒い光を受けた魔物を押しつぶしていく。

 光を放ちきった宝玉は、ひび割れ粉々に砕け散った。


「ほほー重力波か。これ系の魔術って制御難しいから魔具ではあんまないんだよな。お前んとこってなんでもあんのな」

「ぁぁ……秘蔵の神宝アーティファクトが……」


 オーノウスが感心して話しかけるも、度重なる高額商品の乱用にアルマは魂が抜けたようにぐったりしていた。


「オーノウスさん、これもいいですかね? 火出ますよ!」


 強力な魔具の連発に気を良くしたのか、アレクシアは穂先から火を吹き出す槍を手に前へと出てきた。やっぱ火ですよ、とぶつぶつ呟くアレクシアは、どこか嬉しそうだ。


「私は~これですかねぇ?」

「これも使えそうだが?」


 後ろに控えていたはずのファラ神教の司教フーナと聖騎士のティリアも、高額そうな魔具を両手に携えていた。

 カルとルミアも、一度後ろへと下がって魔具を補充しているようだ。オーノウスは既に準備を整えている。


「おう! じゃんじゃん行こうぜ! 景気良くぶっ放そうぜ!! ハッハー!!」


 オーノウスの号令と共に、各々が思いのままに銀の小鳥から持ち出した魔具を放つ。

 風の無い夜の砂漠に、色とりどりの光と轟音が鳴り響いた。


 まるで、花火のように瞬く光をぼんやりと見つめながら、移動商店『銀の小鳥』店主アルマ・クルーエは、一人涙を流した。