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第31話/全45話

魂の欠片

 高威力かつ超高価な魔具をこれでもかという程消費し、かなりの魔物を屠った。それでも魔物は次々と押し寄せてくる。

 

「うう……ぐすん……絶対あとで請求してやるですからね……!!」

 

 滂沱の如く涙を流しながら、アルマは心底憎いという声でオーノウスに恨み言を吐いた。


「ハッハッハ! ファティマとラングリーズから好きなだけふんだくってやれ! 俺にゃそんな金はねぇ!」


 カラカラと笑いながら、乱暴に投げつけられた魔具を受け取り、魔物に向けて発動させる。オーノウスの言葉を聞いたアルマは、近くにいたラングリーズの二人をギロリと睨み、金、と小さく呟いた。


「えっと、無料だと思ってた。どうしよう、私のお小遣いじゃ絶対足りない……」

「なんにしても生き残らねば意味があるまい。この戦いを生き延びたなら……私のへそくりも提供しよう」


 アルマが放出した魔具は、非常に高価だ。ラングリーズの王族や上位の騎士であれ、個人でどうこうできる金額ではない。

 あまりの常識の無さに肩を落とす。最後の砦とファティマの二人に目を向けるも、上手く視線を逸らされてしまった。


 今回の損失はどれほどになるか。どこかに請求をしなければ、商店の経営は立ち行かなくなってしまう。どうしてこんなことになってしまったのだろう。


「そろそろ限界だな。おら、いつまでも泣いてんじゃねぇよ。商品の補填ならカレンに口利いてやっから、しゃきっとしろ」

「カレン……? カレンって商工ギルド長、カレン・グッドマンですか!? 悪ガキ……お前ってやつは……!!」

「んだぁー鼻水つけんじゃねぇ!! とにかく、ここ乗り切らなきゃ意味ねぇんだ。退くぞ」

「そうですね、ちょっと待つですよ」


 どこに収納していたのか、アルマは丸く巨大な玉に導火線が付けられた、見るからに爆弾とわかる物体を両手に持っていた。


「せっかくなので、大玉でしめるです!!」

「お、いいじゃねぇか。派手なのぶちかましてやれ!!」

「たーまやーですーー!」


 導火線に火を付けて、爆弾を放り投げる。爆弾は放物線を描いて魔物の群れへと到達し――


 凄まじい爆発を巻き起こした。


 無駄に派手な七色の爆炎と共に爆風が吹き荒れる。結界の外に出ていたオーノウス達は、二層目の結界まで爆風で吹き飛ばされた。

 同じように吹き飛ばされた魔物が、結界に激突して火花を散らす。吹き飛ばされた魔物は、尚も続く爆風と一層目の結界に挟まれて押しつぶされ、そのほとんどが姿を消した。


「やってやったですよ!!」


 爆風で結界の中まで吹き飛ばされ、でんぐり返しの格好となったアルマが楽しそうに叫ぶ。同じく爆風にまかれて混乱していた面々も、アルマの声で我に帰り、結界の方に目を向ける。

 

 どういった原理か、結界の外は未だに七色の爆炎に包まれている。結界は健在だ。今までの勢いならば、魔物が爆炎を越えて押し寄せてきそうだが、その気配はない。


「……やったか?」


 今まで止まることのなかった魔物の勢いが止まり、淡い期待を乗せてオーノウスが呟いた。

 あれだけの攻撃を続けた上に、かなり広域に及ぶ爆撃を加えたのだ。魔群暴走スタンピードの魔物が、興奮状態とはいえ正気に戻った魔物達が逃げたした可能性もある。


「そういうのを、フラグっていうらしいですよ」


 オーノウスの傍らまで歩いてきたアルマが、結界の方を指差す。

 タイミングを合わせたように、一体の魔物が爆炎をくぐり抜けて結界に激突した。

 続くように、一体、二体と爆炎をくぐり抜けた魔物が結界に辿り着く。あっという間に一層目の結界の外は魔物の群れに埋め尽くされた。


「そう上手くはいかねぇか」

「ですね。もう商店のアイテムは売り切れですよ。結界の中から外を攻撃する手段はあるですか?」

「ルミアぐらいだな。ルミアも補助系の巫術がメインだから、それほど攻撃に長けているわけじゃねぇが」

「バランス悪いですね」

「こんな大規模な戦いを想定してなかったんだよ。さて、どうすっか」


 次々と結界に張り付く魔物を見ながら、次の手を考える。一層目の結界はまだ保ちそうだが、押し寄せる魔物の圧力できしみ始めている。


「魔導師がいりゃよかったんだが、無い物ねだりしてもしゃあねぇか。一層目が破られるまでに防衛戦を――」

焔箭時雨フラムアヴェルス


 言霊と共に、何もない空間に小さな円形の魔法陣が無数に描かられる。魔法陣は周囲のマナを吸収して赤く輝く矢を放った。

 無数の魔法陣から放たれた赤い矢は、雨のように魔物に降り注いだ。


「少しの間なら、私が牽制しますよ。この程度でよければ、ですが」


 人の頭程の水晶球を手にしたアレクシアが、すっと前に出る。


「今の、魔術か? 詠唱も無しに、こんな大規模な魔術が撃てるのかよ……」

「魔術に似たようなものですね。今の私では数はあまり撃てないけど……」


 アレクシアが放ったのは、汎ゆる事象と縁を結ぶラングリーズの召喚魔法と異なり、召喚陣を通じて特定の魔術結果を召喚する秘術だった。召喚魔法の方が威力も効率も良いが、グランフェリアに使用を止められている。

 アレクシア自身も、召喚魔法を行使すると著しい消耗を感じていた。消耗、というよりは魂が削り取られるような感覚と言った方が近い。どうしようもなくなれば躊躇なく使うだろうが、できる限り使いたくはない。


「後、何回使える?」

「二回が限界ですね。もう少し修練を積んでおけばよかったです」

「およ? 鍛えれば数撃てるようになるですか?」


 この秘術は自らの魔力を多く使う。加えて魔力操作能力が低いと余計に魔力を消費してしまうため、修練を詰んで研鑽すれば、威力も効率も段違いに上がるはずだ。

 強くなりたい、と思いながらも修練に時間をかけなかったことが悔やまれた。


「自力が上がればいいってことですよね? なら、コレ使うといいです」

「なんですか、これ?」


 アルマが蒼く輝く宝石を差し出してきた。透明な石は光を反射してキラキラと光っている。

 宝石を受け取り、覗き込むと自分の顔が宝石に映る。まるで宝石に自分が閉じ込められているようで、不思議な感覚だった。


「お、映ったですね。なんか合いそうな気がしてたです。んじゃ、それあげるです」

「なんだそりゃ? 俺も見せてもらっていいか?」


 オーノウスが同じように宝石を覗き込む。しかし、宝石には何も映っていない。


「あら、それは魂の欠片ですね。こんなに純度が高いのは初めてみましたけど~」

 ファラ神教の司教であるフーナがオーノウスが覗き込んでいる宝石を逆側から覗いている。宝石には何も映っていなかった。


「魂の欠片? なんだそりゃ」

「名前の通りですよぉ? 魂を埋める為の欠片です。どうやらこの欠片はアレクシアさんに適合しているようですね~」

「私に? 適合していたらどうなるんですか?」

「使うとパワーアップします!」

「なんだそりゃ。うさんくせぇ」


 レーベンガルズに生きる者達は、欠けている。すべからく、欠けている。太古の神々に老いと死を押し付けられたその時から。その事実は世界に生きる者達が知りうることではないが、魂の欠片と呼ばれる宝石に、欠けた魂が宿ることを一部の者達は知っていた。

 欠けた魂を補うことで、その者の存在はより完成に近づく。


「というわけでですね、それを使うとアレクシアさんがパワーアップしますよ」

「そんな凄いアイテムなんですね。でも、どうやって使うんだろ?」

「食うんじゃね?」


 オーノウスから魂の欠片を受け取ったアレクシアは、なるほど、と手を打って宝石を口に入れた。


「……かたいれふ。あと、おいひくない」

「食べちゃだめですよー。ちょっと貸してくださいね」


 口に咥えられている魂の欠片をそっと引き抜き、フーナが呪文を唱える。宝石から幾つもの細い光が糸のように伸びてアレクシアに吸い込まれていった。

 しばらくすると光が消え、魂の欠片は崩れ去った。


「これで完了です。どうですか? 進化した感じ、ありますか?」

「……ちょっと、わかんないですね」

「試しにさっきの魔術使ってみたらどうだ?」


 先程の魔術で数を減らしていた魔物も、時間と共に元の数に戻っていた。


「……氷槍蓋世グラスロワ


 言霊を発したアレクシアの頭上に出現した巨大な魔法陣から、陣の大きさに見合った氷の巨槍が射出された。

 射出された氷の巨槍は周囲の魔物を薙ぎ払い、地面へと突き刺さった。氷の巨槍が突き刺さった場所から莫大な冷気が吹き出し、一面を氷漬けにした。


「今度は合唱魔術かよ。地形効果まで発生してるし」

「運が良かったです!」

「ん? もしかしてこの魔術って、結果ランダムなのか?」

「はい。威力や範囲は、ある程度指定できるんですが、なにが出るかは使ってみてのお楽しみですね!」


 魔術結果を召喚する際に、その時に最も縁が近い魔術が選定される。完全に指定することもできるが、魔力消費が激しいため指定はしていない。それに、なにが出るかわからないという部分をアレクシアは気に入っていた。


「それで、どうです? お姫ちゃまは、ぱわーあっぷしたですか?」

「うん! すごいぱわーあっぷした感じします!!」

「お、マジか! 地形効果だせるならガンガン行きたいところだが、後何回くらい使える?」

「そうですね……今の、スーパーでミラクルなアレクシアなら……」


 一度言葉を止めて、溜めを作る。こういう発表は雰囲気が大事だと、父が言っていたのを思い出してやってみたが、良い感じで周りに期待をもたせることが出来たようだ。

 アレクシアは周りの期待感が最高潮になったのを感じて、くわっと目を見開き、期待されている言葉を放った。


「後二回! やったね!」

「一回増えただけかよ!! 微妙だ!」


 ドヤ顔で自分の成長を発表したが、即座にオーノウスからツッコまれてしまった。


「微妙じゃないですよ! 三割強増しですよ!?」

「その貴重な三割ちょいを試し撃ちで消費しちまったからなぁ」

「威力はバッチリだったし、地形効果まで付いたんだから無駄撃ちじゃないです! もっと褒めて欲しい!」

「へいへいよくやったよくやった。でも、あれだな。後二回なら、下手に使わねぇ方がいいか」


 アレクシアの魔術は強力だ。二回の発動でかなりの魔物を削ることができた。残りはいざという時の為に温存しておきたい。

 幸い、魔術による地形効果のおかげで魔物の動きが鈍っている。動くならば、今だろう。


「フーナとアレクシアは二層目の結界で待機だ。他は一層目まで出るぞ。カル、結界に穴あける準備」

「うぃっす。こっからは肉弾戦っすね」

「そういうこった。おい、アルマどこ行く」


 逃げようとしたアルマの首根っこを掴んで、強引に前線へと連れて行く。


「お、おかしいです。アルマも待機組のはずです、だって商人だから――」

「商人の基準がお前だったら、エイザンが世界征服できるっての。グダグダ言ってねーで行くぞ」

「ぐ、ぐぬぬ……」


 結界の外には、また溢れんばかりの魔物が集まっている。結界が破られれば、魔物の勢いに押しつぶされて終わりだ。

 そうならないよう、結界に出口を作ってわざと魔物を引き入れる。一度に戦う数をコントロールすることができれば、数だけの敵はそれほど怖くはない。


「隊列は前に話した通りだ。アルバートのおっさんとティリアが前衛、俺とアルマが遊撃、カルとルミアは支援だ。怪我したらスイッチして待機組のとこまで戻って回復。わかったか? わかったら返事しろ」

「任された」

「聖騎士として、皆を守る事を誓おう」

「不服です! ふふーく!!」

「ま、いつも通りっすね」

「指示、承知」


 返事をしながらそれぞれが武器を構える。アルマも不服と言いながら、両手でナイフをくるくると回している。準備が整っていることを確認したオーノウスは、カルに目配せをした。


 頷いたカルが、懐から取り出したナイフを投げると、予め仕込んであった場所に穴が開いた。開いた穴から、我先にと魔物がなだれ込もうとしているが、一度に大群が通れる程の広さはない。

 魔物は漏れるように少しずつ結界内に入ってきていた。


「うっし。死ぬ前に殺しきりゃ勝ちだ。行くぞ!!」