WEB小説

第33話/全45話

過剰戦力

「ルミア下がれ! カル、ティリアは結界の再構築だ。アルマ、援護頼む。おっさんは俺と一緒に入り口の敵を蹴散らすぞ」


 結界の穴から侵入した魔物を倒しながら、周囲に指示を飛ばす。上手く敵を誘導したことで、未だ一層目の結界は意図的に空けた穴以外に綻びはない。


 思った以上に順調だった。だが、連続で戦闘を行うのは危険だ。結界はまだ、二層分残っている。敵の数は着実に減っているが、無理をせず、体力の回復に務めるのが最善だ。オーノウスは一度結界の穴を閉じて、退く判断をした。


 オーノウスの指示に、歴戦の戦士達は素早く動いた。ファティマ聖王国の聖騎士であるティリアが局所を守るための結界術を準備し、カルはその結界を補強するための魔術媒体に魔力を注ぐ。


 オーノウスとアルバートは結界の穴から魔物を遠ざけるために、群れの中に躍り込む。右手に持った短い曲刀で正面の魔物の首を切り落とす。首を失った魔物の身体を蹴り倒し、後ろから迫ってくる獣型の頭部を前かがみになりながら、左手の直剣で貫いた。同時にオーノウスの頭上で銀閃が走り、横から喰らいつこうとしていた魔物が両断された。


 アルバートの動きにオーノウスがにやりと笑う。流石は歴戦の騎士だ。正当な剣術や体術とは違う、我流で鍛えたオーノウスの不規則な動きに、早くも対応して合わせている。多少の漏れはアルマに任せる目もある。


 戦いやすい。いつもは仲間をフォローしながら、常に周りに気を配る必要があった。今回の戦いでも全体を見て適時指示を飛ばしているが、こうして前線で戦う時に周りを気にせず、背中を任せられる状況で戦うのは初めてだった。


 誰かの上に立つのではなく、同等の者と肩を並べ、背を任せて戦う。悪くない。


「まだまだ行けそうだな。結界の準備はできてるみてぇだが、もう少しこのまま――」


 傍らで戦っているアルバートに声をかけようとしたが、横合いから突き飛ばされた。とっさに体勢を整えて自分を突き飛ばした方を見る。


「おっさん!?」


 そこには身体から血しぶきを上げるアルバートの姿があった。オーノウスはアルバートが魔物の攻撃から自分を庇った事を悟る。傷の具合はわからないが、一度退かせなければならない。魔物の動きを確認しながら次の動きを考えていると、小さな光が数度瞬いた。


「狙撃!?」


 正気を失っている魔物の群れから狙撃など、と考えている暇はない。直感を信じて、その場を飛び退き、アルバートの前に立つ。


 バシュ、という音が鳴り、オーノウスが先程までいた場所の地面が弾けた。


「チッ、厄介なのがいやがる。退くぞアルマ!」


 倒れているアルバートを片手で担いで二層目の結界へ向けて飛ぶ。アルマが二人を守るように素早く後ろについた。


「後ろはいい! オメェも行くぞ」

「むきゃ!?」


 空いている手でアルマの服を掴み、自分の方に強引に引き込よせる。カルとティリアは既に結界を発動して二層目まで下がっていた。

 一層目の結界が取じられ、閉じ込められた魔物達が二層目の結界目指して押し寄せてくる。


「くるですよ! どうするですか悪ガキ!?」

「土産置いてきたから大丈夫だ! 飛ぶぞ!」


 二人を抱えたオーノウスが二層目の結界に飛び込むと同時に、一層目と二層目の結界の間で爆発が起きた。


「起爆術符、まだ隠し持ったやがったですか」

「当たり前だろうが。それより、おっさんだ! フーナ!」

「私は、大丈夫……だ。それよりも、警戒を怠るな」

「血まみれで何言ってやがる!!」


 しかし、叫ぶと同時に頭の後ろで金属を弾くような音がした。後ろではアルマが敵を警戒していた。


「……結界を越えてくるですね、この弾」

「んな馬鹿な。敵意のあるものを弾く高等結界だぞ……!」

「……これで、高等? やはり、脆弱」


 魔物の群れの中を平然と歩いてくる男がいた。

 輝きの無い白い髪をなびかせて歩く、色白で長身の男。黒い革の服を身にまとい、両手にはそれぞれ銀色に輝く銃を持っていた。ひと目見ただけでは、人間と相違ないように見えたが――


「グロウ・アクラネア……魔族の四天王」


 誰かが呟いた。白髪の拳銃使いは、唯一人とは異なる、血のように赤い双眸を薄く開き、見下すようにオーノウス達を見ていた。


「……無駄な手間」


 静かな声と共に、グロウ・アクラネアの持つ銃が光る。結界を突き抜けてオーノウス達に迫る銃弾は八つ。銃弾は結界をすり抜けてオーノウス達に迫る。しかし――


「あめぇよ」

「止まって見えるですね」


 アルマとオーノウスによって、八つの弾丸は簡単に打ち払われた。


「脆弱とか言ってたが、結界抜けられるのがその弾だけだってんなら、大した脅威じゃねぇな」

「……確かに、結界は邪魔」


 言いながら、手で結界に触れる。

 結界はグロウを拒み、火花を散らせた。グロウは結界によって焦がされた指先をこすりながら、面倒くさそうに目を細めている。


「……」


 何かを諦めたのか、ため息をついたグロウは一丁の銃を腰に差し、片方の銃の弾倉を開いて銃弾を入れ替えた。


「過剰戦力……だが、面倒には代えられない」


 弾を入れ替えた銃を上空に向けて放った。放たれた銃弾は空で弾けて光る紋様を描き始める。


「なんだ、ありゃ?」

「あれは……転移魔法陣!?」


 空に描かれる魔法陣を見上げていたオーノウスの呟きにティリアが答えた。転移魔法陣――莫大な魔力と膨大な時間をかけて詠唱して、やっと小さな物を送る程度の陣しか作れない、超高等魔術。

 イセンの大魔導ですら、満足に扱える者は少ないと聞く。白鷲聖騎士団において、対魔防衛隊に所属するティリアをして、あれ程の規模を持つ転移魔法陣を見るのは初めてだった。


「マジかよ。あんなん使うのイセンの三魔女くらいだと思ってたぜ……」

「私もあれ程の規模の転移陣は初めて見る。なにが出るか――」


 言っている間に、空に描かれた魔法陣が輝き――巨大な何かを落とした。

 空から落ちた巨大な何かは、まっすぐに地面へと落下して、結界にぶつかり――


 そのまま一層目の結界を破壊した。


「くそが! 姫さん、フーナ! おっさん連れて下がれ!」


 怪我人達を後方巨大な何かが落ちた衝撃で発生した砂煙が晴れた。そこに現れたのは、二メートルを越える巨体を有する男。


「過剰戦力って、そういうことかよ……」


 巨体に合った鋼のような肉体。グロウと同じ赤い双眸。そして、そこに居るだけで、周りを恐怖に陥れる程の圧倒的な存在感。

 男は低く、威厳のある声で名乗りを上げた。


「我は、ゾロス……。魔族四天王が筆頭、ゾロス・アルグレイブ!!」


 オーノウスの頬を冷や汗が伝う。魔物の大群に加えて、魔族の最高戦力である四天王が二人。


 脳裏に魔女から告げられた言葉が浮かんだ。



――死ぬよ