WEB小説

第36話/全45話

想定外の戦力

 聖女の祝福ブレスによる支援、そして救いの唄ベルカントの効果で魔群の動きが鈍っていることもあり、二層目の結界を破られることなく、戦うことができていた。


 カルとルミアが四天王の一人、グロウ・アクラネアを戦場から引き離して戦っている。魔群との戦いが始まってから、回復の為に後方で待機していた、ファラ神教の司教フーナ・オディアールが二人を支援するために前線へと出ていた。

 

「よいしょー」


 気の抜けた掛け声を発しながら、決して戦闘用とは思えない神官用の杖を振るう。


「もうひとつー」


 フーナが杖を振るうたび、冗談のように魔物の群れが吹き飛んでいく。


「そこですかね? あ、当たりですよ~」


 おっとりとした口調とふわふわした見た目とは裏腹に、俊敏な動きで魔物を蹴散らしていたフーナが、魔物の群れに潜んでいたグロウを見つけ出した。


「……チッ」


 盾となる魔物を蹴散らされたグロウは、舌打ちをしながらも冷静に引き金を引いた。聖騎士の盾を貫く為に装弾した、威力の高い魔力弾が放たれる。


「わわ、危ないです~」


 フーナは相変わらず気の抜けた声を発しながら、慌てた様子もなく杖をくるりと回して魔力弾を撃ち落とした。


「……想定外」

「だよな。いや、あのお姉ちゃん、オレより強いよな」

「……面倒。……貴様も、鬱陶しい」

「まあまあ、そう言わずにオレっちにも付き合ってくれよ」


 軽口を叩きながら、闇から現れたカルがグロウを斬りつけた。右手に持つ金属製の銃で斬撃を受け止め、左手で腰に差した銃を引き抜いて至近距離からカルを撃ち抜こうと引き金を引く。

 しかし、必殺の間合いとタイミングで放たれた銃弾は、ルミアの鎖に阻まれてカルを撃ち抜くことはできなかった。


「どっこいしょー」


 気の抜けた声と共に振られた杖が、無防備なグロウの脇腹に打ち込まれた。あまりの威力に、グロウは魔物を巻き込みながら吹き飛んでいく。


「魔族さんはリアクションが大きいですね~」


 場違いな発言をしながら、フーナは吹き飛んでいくグロウを呑気に眺めていた。


 ファラ神教には悪魔祓いエクソシストと呼ばれる、対魔物戦に特化した戦闘部隊が存在した。聖地ファティマを守護する聖騎士が護りに特化した戦士ならば、悪魔祓いエクソシストは攻めに特化した戦士である。

 長い戦いの歴史を持つ、ファラ神教の悪魔祓いエクソシストは、対魔物戦において一人一人が一騎当千の力を持つと言われている。


「フーナ殿は悪魔祓いエクソシストでしたか。魔物との戦いでこれほど頼りになる存在はない」

「はい? 私は司教ビショップですよ? 昔から運動は苦手でして。普段は回復専門ですけど、今回はいっぱい敵がいますからね。頑張ります~」

「……」


 常軌を逸した力を振るうフーナは、噂に聞く悪魔祓いエクソシストだと思っていたが、どうやら違ったようだ。一般的に司教ビショップは、教会で説法をしたり聖術を使って傷を癒やすことが主な仕事だ。間違っても、杖の一振りで数十体の魔物を吹き飛ばしたりできる司教ビショップは聞いたことが無い。

 白鷲聖騎士団の従軍司教が皆、これほどの戦闘力を有しているのか、それともフーナが特別なのか。いずれにせよ、フーナの戦闘力は嬉しい誤算だ。


「どちらにしても、フーナ殿がいればこちらはなんとか食い止められそうですね」

「お力になれているようで良かったです。一緒に頑張りましょ~。そうすれば、きっと神が報いてくれますからね」


 こちらを食い止めることができれば、もう一方の戦いも楽になるはずだ。

倒し切ることは難しいかもしれないが、せめて魔物の指揮とオーノウス達の戦いに関与させないようにしなければならない。


 ルミアは鎖の先に宝石の付いた魔具フーチを振り上げて、支援の為の巫術を発動させた。